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最強の麻痺改善の治療法を目指して

中枢神経障害(脳梗塞、脳出血、脳外傷、脊髄損傷)による麻痺は大脳皮質運動野(神経細胞)あるいは運動性下行路(神経細胞、軸索)の損傷が原因ですから、麻痺を改善させるには、大脳皮質から脊髄前角細胞までの神経路の再建と強化が必要です。
  • 図1: MRIと損傷部位

神経路の再建と強化の原則

神経路の形成と強化は二つの原則があります。

(1)興奮を繰り返し伝えた回路は強化されます。

神経路へ興奮が伝わると、シナプスの伝達効率が上がり、それを繰り返すとシナプスは組織的な強い結合になります。
  • 図2: 神経路と学習

(2)同時に興奮した回路は結合します。

同時に興奮する神経路は結合し、強化されます。代表的なものがパブロフの条件反射です。
  • 図3: パブロフの条件反射

鮎を食べる時にメトロノームを繰り返し聞いた猫はメトロノームだけでヨダレが出るようになる(パブロフの条件反射)。

最強の麻痺改善法への戦略

最強(改善度/治療時間)の麻痺改善を目指すには、(1)強化したい神経路に繰り返し興奮を伝える「促通反復療法など」と、(2)運動性下行路の興奮水準を調整する「磁気・電気・振動刺激、ボツリヌスなど」との組み合わせが必要です。
  • 図4: 神経路の興奮水準の調整

興奮水準が高い痙縮筋の神経路の興奮水準を下げ、目標の運動に関与する神経路の興奮水準を上げて、患者が意図した運動を出来るようにする。

最強の治療法、つまり、目標の神経路の再建・強化を効率的にできる方法を確立できれば、多くの麻痺患者に恩恵を与えることが出来ます。
  • 図5: 賢い治療戦略=良い条件で、目標の神経路へ興奮を伝達

目標の神経路の再建・強化を効率的にできる最強の治療法を確立できれば、多くの麻痺患者に恩恵があります。

目標の神経路の効率的な再建・強化

目標の神経路の再建/強化には、治療者が目標の神経路を指定して麻痺肢に意図した運動を実現・反復することが必要です。  *ニューラルモジュレーションの多くは治療者が目標の神経路(個々の指の屈伸など)を指定できません。 不可欠な要因は以下の4つです。

<目指すべき治療内容>

(1)目標の神経路を治療者が指定

治療者による目標の神経路を指定する促通操作がない場合、患者は運動努力によって生じる様々な運動の中から意図した運動を探すこと(多くの試行錯誤)が求められます。

  • 図6: 迷路の図

促通反復療法は目標の運動を実現するための出口(神経路)を患者に教えるため、患者は試行錯誤なしで意図した運動を実現できる。

(a)促通反復療法(Repetitive Facilitation Exercise):

治療者が「人差し指を伸ばして」と指示すると同時に、促通操作を行って、その運動の神経路の興奮水準を高めれば、目標の運動の実現・反復(50-100回: 神経路の強化)が容易になります。

  • 図7-1:促通反復法の原理と治療成績

治療者が示指を素早く曲げ、示指を伸展する神経路の興奮水準を高めると、患者は容易に示指だけを伸ばすことが出来る。

  • 図図7-2:促通反復法の原理と治療成績

回復期の脳卒中患者を無作為に2群に分け、片麻痺上肢に通常の作業療法を行った群(黒線)と促通反復療法を行った群(赤線)で麻痺の改善を比較すると、促通反復群が通常の作業療法群より改善が有意に大きかった。

  • 図7-3:促通反復法の原理と治療成績

回復期の脳卒中患者を無作為に 2 群に分け、片麻痺下肢あるいは上肢(肩、肘)、手指に通常治療を行った群(白)と促通反復療法を行った群(赤)で ADL(日常生活活動)の改善を比較した。促通反復療法群は下肢あるいは上肢、手指に別れるが、促通反復群は通常の治療群より ADL の改善が大きかった。特に両群の改善の差が目立ったのは(有意あるいは有意に近い)、下肢治療群の総合得点、運動得点、手指治療群の総合得点、上肢・手指の機能が関与するセルフケア得点だった。

(b)持続的電気刺激下で課題遂行(独自の先端的手法):

目標の筋群に持続的電気刺激を与えた状態で運動・作業療法を行います。

(c)意図実現型の訓練用ロボット:

これまでのロボットは「手を前に伸ばす」など課題を患者が行い、不足分をロボットが介助します。「意図実現型」とは促通機能(電気・振動刺激など)を与えて、患者の「手を前に伸ばす」自動運動を増加させ、課題修得を促進します。

(2)先端的な併用療法: (a)+(b)+(c)

(a+b) 持続的電気刺激法下での促通反復療法:

持続的電気刺激法(運動閾値を超える電気刺激)下で促通反復療法を行うと、効果が倍増します。

  • 図8-1: 持続的電気刺激下で促通反復法

持続的電気刺激法と促通反復療法を併用すると、患者は麻痺肢を思い通りに動かし易くなる。

(c)持続的電気刺激法下での促通反復療法: (a)+(c)

促通反復療法の原理と電気・振動刺激法を応用したロボットは強力な訓練用ロボットで、実用的な運動を強化します。

  • 図8-2: 持続的電気刺激下で促通反復法

回復期の重度片麻痺上肢例を無作為に 3 群に分け、通常の作業療法(青線)、促通反復療法(緑線)、持続的電気刺激下で促通反復療法(赤線)を4週間行った。上肢麻痺の改善は持続的電気刺激下で促通反復療法群(赤線)が通常の作業療法(青線)より有意に大きかった。

  • 促通機能付きリーチング、前腕回内・回外ロボット

促通機能付きモーター能動免荷リーチングロボットによる上肢を上方へ挙げる訓練です。この革新的なロボットは患者が上肢を上方へ伸ばそうと努力すると、上肢の支えに加えて、電気刺激(2カ所)と振動刺激(2カ所)を用いて、上肢を上方へ伸ばそうとする運動を生じさせる(促通機能)を有します。本例では更に電気刺激(2カ所)とマッサージャーを追加しています。

  • モーター能動免荷機能リーチングロボット訓練が有効だった不全脊髄損傷

モーター能動免荷リーチングロボット訓練(20分)と肩肘への促通反復療法(20分)を2週間ずつ交互に行ったが、肩の屈曲角の改善(赤い↓)はロボット訓練に見られた。この効果の差は訓練中の肩肘の屈伸運動数の差(促通反復療法:200回、ロボット訓練:400~500回)によると考えられる。

(3)目標の神経路の興奮水準の調整:

目的は、(a)大脳の神経細胞が強い運動指令(興奮)を出すこと、(b)目標の神経路の興奮水準を高めることです。

(a)強い運動指令(興奮)を出す方法:

経頭蓋磁気刺激法(TMS)などで、目標の運動に関連する大脳皮質を興奮水準を高める/それを阻害している領域を抑制することです。

(b)目標の神経路の興奮性を高める方法:

以下の組み合わせが必要です。

振動刺激痙縮抑制法:痙縮筋の脊髄前角細胞の興奮水準を抑制する。

機能的振動刺激法:歩行や物品操作の開始前・運動中に目標の神経路に振動刺激を与える。

持続的電気刺激法:目標の運動性下行路に持続的に電気刺激を与える。

ボツリヌス療法:痙縮筋の神経路の興奮水準を抑制する。

図10-1: 振動刺激痙縮抑制法

振動刺激痙縮抑制法は振動刺激を痙縮筋あるいは痙縮筋の収縮を起こす部位に与えて、数分で痙縮を抑制します。 従来の長いリラクゼーションは不要で、治療時間の多くを効果的な治療に割振ることが出来ます。

図10-2: 振動刺激痙縮抑制法

片麻痺上肢の麻痺は促通反復療法で改善しますが、伸び悩んだ段階で振動刺激痙縮抑制法を2週間併用すると、物品操作能力と指タッピング数が更に改善し、振動刺激痙縮抑制法を中止後も、そこで得られた改善は維持された。

図10-3: パワープレートで神経路の興奮水準調整

両下肢と体幹への振動刺激は、麻痺肢の痙縮を抑制し、同時に健側下肢と体幹の運動機能を向上させます。

(4)損傷部への細胞の補充:

(a) 再生医療: 幹細胞が損傷部の保護と神経細胞の働きを代行します。
*目標の神経路の再建・強化には、(1)(2)(3)+目標の自動運動を頻回に反復できる訓練用ロボットが重要です。

  • 図11-1: 再生医療とリハビリテーション
  • 図11-2: 脊髄損傷:神経路形成の過誤

脳卒中や脊髄損傷への神経系再生医療が十分な効果を得るためには、神経路の正確な再建と強化が不可欠ですから、再生医療+リハビリテーション+ロボットの協力が必要です。

麻痺への治療を発展させるために

麻痺の回復には、脳の可塑性が大きい期間(急性期、回復期)に麻痺した手足への強い刺激と運動が効果的です。

発症後6ヶ月が過ぎても、促通反復療法など強度の高い治療を行えば、麻痺の改善が期待できます。

促通反復療法に電気刺激や振動刺激、ロボット訓練などの併用療法を発展させる必要があります。

  • 図12:強力な治療で慢性期麻痺も改善

促通反復療法に電気刺激や振動刺激、ロボットを組み合わせた併用療法は、従来の治療より強力な治療法です。今後も、再生医療との併用など更に強力な治療法へと発展させて、多くの麻痺に悩む患者の期待に応える必要があります。